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【小児科医師執筆】赤ちゃんの乳幼児突然死症候群(SIDS)とは?確率と危険因子・予防対策

この記事の監修医

井上 信明 先生

井上 信明先生

資格・経歴

日本小児科専門医、小児科指導医、アメリカ小児科専門医、 小児救急専門医。公衆衛生学修士(国際保健)

奈良県出身。奈良県立医科大学卒。日本、アメリカ、オーストラリアにて小児科、小児救急医療を研修。日本だけでなく、特にアジアの子どもたちが、安全で安心できる環境で育つことができる社会づくりを目指しています。

乳幼児突然死症候群という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
あまり身近に感じられないことかもしれませんが、医学が発展した現在でも起こっている赤ちゃんの突然死です。
ただ、ある程度起こりやすい状況はわかってきていますので、正しく情報を持って予防できるようにしたいところです。
今回の記事では、この乳幼児突然死症候群について、現在のところわかっている危険因子や予防法についてご説明したいと思います。

乳幼児突然死症候群(SIDS)とは?

まず乳幼児突然死症候群(SIDS)とは、どのようなものなのかについてご説明します。

乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断基準

乳幼児突然死症候群は、英語でSudden Infant Death Syndrome(通称SIDS)と呼ばれています。
日本では、2012年に厚生労働省の研究班で
乳幼児突然死症候群(SIDS) とは
それまでの健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査および解剖検査によってもその原因が同定されない、原則として1歳未満の児に突然の死をもたらした症候群
と定義されています。
つまり、「それまで元気であった赤ちゃんが突然亡くなり、しかも色々と調べてもその原因がわからないもの」ということです。

乳幼児突然死症候群(SIDS)で亡くなる赤ちゃんはどの程度いるのか?

日本の人口動態調査によると、2018年では60人の赤ちゃんが乳幼児突然死症候群で亡くなっています。
1998年は399人、2008年は168人が乳幼児突然死症候群で亡くなっていますので、確実にその数は減少していますが、1歳未満の赤ちゃんの死亡原因としては、4番目に多い原因となっています。
この間、年間で生まれる赤ちゃんの数が減っていますので、突然死する赤ちゃんが減っている可能性はありますが、乳幼児突然死症候群の発生率そのものが減っていることも事実です。
一般的に秋から早春にかけた時期に発生する確率が高く、なぜか男の子の方が発生率が高いことも知られています。
乳幼児突然死症候群死亡者数の推移
乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子

乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子

乳幼児突然死症候群の原因は依然明確ではありませんが、世界各地で行われた調査により、乳幼児突然死症候群の発生率が高くなる危険因子はわかってきています。そこで、次にこの危険因子のうち、主なものを3つご紹介します。

赤ちゃんのうつ伏せ寝

うつ伏せ寝は、赤ちゃんが窒息する、また吐いた息を再び吸い込むことになり、体のなかの酸素濃度の低下、二酸化炭素濃度の上昇、体温の上昇などを起こす可能性が考えられています。
これにより、赤ちゃんが呼吸の調節がうまくできなくなることが起こりえます。
また寝かせるときに横向きにした場合も、最終的にうつ伏せになってしまい、乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険性が高まります。

赤ちゃんへのタバコの影響

タバコの煙に含まれる化学物質が、乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子になっている可能性も指摘されています。
乳幼児突然死症候群(SIDS)で死亡した赤ちゃんは、他の原因で死亡した赤ちゃんに比べ、肺のなかのニコチン濃度、また副流煙のマーカーでもあるコチニンの濃度が高かったことがわかっています。
また副流煙に含まれる化学物質が、赤ちゃんの呼吸調節を妨げる可能性もあります。

赤ちゃんとの添い寝

お母さんが赤ちゃんに添い寝することで、赤ちゃんがお母さんの吐いた息を吸います。そのために、体のなかの酸素濃度の低下、二酸化炭素濃度の上昇が起こる可能性が指摘されています。
また添い寝している間に、気がつかないうちに赤ちゃんに覆いかぶさってしまっていることもあるでしょう。
過去の研究では、添い寝をしている最中に赤ちゃんの突然死の危険性が大幅に増えることが示されています。

乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防

乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防

次に乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防策として、赤ちゃんを寝かせるときの注意点と育児のなかでの注意点の2つに分けてご説明します。

赤ちゃんを寝かせるときの注意点

まず、赤ちゃんを寝かせるときの注意点を6つご紹介します。

● 仰向けに寝かせる
1歳になるまでは、完全に仰向けの状態で寝かせます
横向きに寝ることも安全ではありませんし、お勧めできません。
ただし赤ちゃんが起きている間、腹ばいにして遊ばせることは構いません。
むしろ赤ちゃんの発達を促進するため、仰向け寝を続けることで後頭部の形が平らになることを避けるために、大人が観察できる間は腹ばいにしてあげましょう。
仰向けからうつ伏せ、うつ伏せから仰向けと自由に寝返りをすることができるようになれば、次に紹介する睡眠環境への注意を十分に払った上で、赤ちゃんが好む寝る姿勢を取ることは構わないでしょう。

● 周囲にぬいぐるみや布を置かない
乳幼児突然死症候群(SIDS)で亡くなった赤ちゃんの多くは、その頭や顔が寝具に覆われた状態で発見されています。 赤ちゃんの寝ている周囲に、枕やぬいぐるみなど柔らかいものを置くことは避けましょう。またシーツのゆるみにも気をつけましょう。
これらは赤ちゃんの顔を塞ぎ、窒息の原因となりえますので、寝ている赤ちゃんの周りに置かないようにしてください。

● 硬いマットの上に寝かせる
しっかりとした寝床(安全性が認められたベビーベッドのマットレスなど)に寝かせ、他の寝具や柔らかいものを周囲に置かずに、ぴったりとしたシーツで覆う必要があります。
しっかりとした表面は、その形状を維持し、赤ちゃんを表面に乗せたときに赤ちゃんの頭の形がくぼんだり、形が崩れたりすることはありません。
柔らかいマットレスでは、赤ちゃんを横向きに寝かせたり、寝返りさせたりすると、表面にくぼみができてしまい、窒息の危険性が高まります。


→ベビー布団・マットレスを探す ● ソファーや椅子に寝かせない
ソファーや椅子は赤ちゃんにとって非常に危険な場所です
ソファーや椅子の上で赤ちゃんが寝ると、乳幼児突然死症候群(SIDS)だけでなく、クッションに顔をつけてしまうことによる窒息、ソファーの隙間に挟まれることによる窒息、また他の寝ている大人が誤って赤ちゃんの上になって赤ちゃんを覆い潰してしまうなど、赤ちゃんが死亡する危険性が非常に高くなります。
そのため、ソファーや椅子で赤ちゃんに授乳したり食事を与えたりする際は、特に注意する必要があります。

● 添い寝をしない、ただしできれば同じ部屋で寝る
赤ちゃんにとって最も安全な寝場所は、お父さん、お母さんの寝ているベッドの近くで、赤ちゃん用に用意された場所です。
もしベッドでの授乳中に眠ってしまった場合は、お母さんが目を覚ましたらすぐに赤ちゃんを別の寝床に戻してください。
また生まれてから1年、最低でも6か月間は同じ部屋で寝ることが安全です。

● 室温を低めに
室温が高すぎると乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが高くなることが研究で示されていますが、適切な室温の定義は明確ではありません。
一般的に、赤ちゃんは、その環境で快適に過ごすために、大人が着ている服の枚数に1枚追加して着ることは問題ないと言われています。
ただ、赤ちゃんが暑いために汗をかきすぎていないか、体が熱くなっていないか、確認する必要があります。

● おしゃぶりを使う
メカニズムはまだ明らかになっていませんが、おしゃぶりが乳幼児突然死症候群(SIDS)の発生率を抑制する効果があることが報告されています。
おしゃぶりは赤ちゃんを寝かせるときに使用します。赤ちゃんが眠りについた後に、おしゃぶりをくわえさせる必要はありません。
またもし赤ちゃんがおしゃぶりを嫌がる場合は、無理に使うべきではありません。
なお、おしゃぶりに紐がついているものは、首が絞まる可能性がありますので、使用しないでください。

育児の際の注意点

次に、乳幼児突然死症候群(SIDS)を予防するために、育児の際に注意できることをご紹介します。

● 母乳で育てる
乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防という観点だけでなく、赤ちゃんの成長・発達によい影響を与えますので、できるかぎり最低でも生後6か月までは完全母乳で育てることが推奨されています。
完全母乳が難しければ、限られた期間でも回数でも構いませんし、状況によっては搾乳をして母乳をあげても構いません。

● 赤ちゃんへのタバコの影響を避ける
妊娠中の母親の喫煙、赤ちゃんのいる環境での喫煙は、いずれも乳幼児突然死症候群(SIDS)の主要な危険因子です。
母親の喫煙だけでなく、妊婦や赤ちゃんの近くでの喫煙も禁止されるべきです。
乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクは、成人の喫煙者と赤ちゃんが同居している場合には特に高いことが知られています。
これはたとえ同居する大人が室内で喫煙していなくても、突然死のリスクが高くなることが知られていますので、完全に禁煙するか、帰宅後は喫煙しないようにすべきです。

● 妊娠中および授乳中は禁酒する
出生前および産後にアルコールを飲むと、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが高まることが知られています。
母親は、妊娠中および授乳中は飲酒を避けるべきでしょう。
親の飲酒と添い寝の組み合わせは、特に乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが高くなると考えられています。

【出典】
アメリカ小児科学会による提言

Task Force on Sudden Infant Death Syndrome. SIDS and other sleep-related infant death: Updated 2016 Recommendations for safe infant sleeping environment. Pediatrics. 2016;138:e20162938; DOI:

まとめ

乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子、そして危険因子を踏まえた予防策をご紹介しました。
乳幼児突然死症候群(SIDS)は冬に多いことも知られており、厚生労働省は毎年11月に乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防対策強化月間としてキャンペーンを実施しています。
もしポスターやパンフレットを見かけられることがあれば、書かれている内容をよくご覧になって、ご自身の生活で改善すべきところがあればぜひ取り入れてみてください。