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【小児科医師執筆】赤ちゃんの夜泣き原因と乗り切る対処法|いつから?いつまで?

【小児科医師執筆】赤ちゃんの夜泣き原因と乗り切る対処法|いつから?いつまで?

この記事の監修医

井上 信明 先生

井上 信明先生

資格・経歴

日本小児科専門医、小児科指導医、アメリカ小児科専門医、 小児救急専門医。公衆衛生学修士(国際保健)

奈良県出身。奈良県立医科大学卒。日本、アメリカ、オーストラリアにて小児科、小児救急医療を研修。日本だけでなく、特にアジアの子どもたちが、安全で安心できる環境で育つことができる社会づくりを目指しています。

赤ちゃんの寝顔を見ていると、いつまでも飽きませんし、心が癒されるのではないでしょうか?しかし、そんな赤ちゃんもなぜか夜になると泣き出し、しかもなかなか泣き止まないことがあります。
今回は、そんな赤ちゃんの夜泣きについて、原因と対策についてご説明いたします。

赤ちゃんの夜泣きとは?

最初に、夜泣きとはどのような状態を指すのか、医学的見地からご説明します。

夜泣きとは、赤ちゃんが夕方から夜にかけて理由もなく泣き続けることです。
理由もなく泣き続ける赤ちゃんについてよく使われる定義として、アメリカのYale大学におられたWessel教授が1954年に提唱した、Wessel基準と呼ばれるものがあります。
これはcolic(コリック)と呼ばれる、泣き続ける状態の赤ちゃんを定義していますが、「3のルール」とも言われ、「1日3時間以上、週3日以上、最低3週間、特に明らかな理由もなく泣き続ける状態」とされています。
ただし、この定義では「夜に泣く」ことは定義に含まれておらず、日本の赤ちゃんにみられる夜泣きとは異なるものを指しているという指摘もあります。

この他にもいくつか基準はありますが、世界中の夜泣きに関する研究をまとめて検証したところ、赤ちゃんの夜泣きに明確な定義はないことがわかっています。
赤ちゃんの夜泣きとは、
生まれてから数週間以降からみられ、夕方から夜にかけて、明らかな理由がないのに泣き続ける状態である
と考えてさしつかえありません。

【出典】


●Wessel MA, et al. Paroxysmal fussing in infancy, sometimes called “colic.” Pediatrics. 1954; 14:421-435
●Long T. Review: Excessive infantile crying: a review of the literature. J of Child Health Care. 2001;5(3):111-6

世界各地にある赤ちゃんの夜泣き

東京の東村山市で行われた調査によると、3-6か月の赤ちゃんの約20%が夜泣きをしたことがあり、18-21か月の赤ちゃんになると65%が夜泣きをしたことがありました。
また世界各地で行われた5,700近い赤ちゃんの夜泣き(正確にはcolic)に関する研究から厳選された28の研究を比較した調査もあります。英語で書かれた論文ですが、アメリカ、イギリス、カナダなどの英語圏だけでなく、ドイツ、イタリア、オランダ、そして日本からも報告があり、世界中で赤ちゃんの夜泣きに関する研究があることがわかります。
なおこの報告では、赤ちゃんの夜泣きの時間は生まれてから最初の6週間までは平均117~133分でしたが、生後10週あたりには平均68分になっていました。
赤ちゃんの月齢 夜泣き時間
誕生~6週間 平均117~133分
生後10週あたり 平均68分
また夜泣きの頻度は、生後6週目に多く、その後徐々に減少する傾向がみられました。

ちなみに、日本の赤ちゃんの平均夜泣き時間は、生後5~6週で107分となっており、他の国よりも短く、頻度も他の国に比べて少ないことが報告されています。

【出典】


●Fukumizu M, et al. Sleep-related nighttime crying (Yonaki) in Japan: a community-based study. Pediatrics. 2005;115 (supplement 1); 217-24
●Wolke D, et al. Systematic review and meta-analysis: fussing and crying duration and prevalence of colic in infants. J of Pediatrics. 2017;185:55-61

夜泣きで病院を受診するポイント

夜泣きの赤ちゃんをあやしていると、いつまで泣き止むのを待てばよいのか、何か重大な病気が隠れていないか、心配になることがあるのではないかと思います。

カナダの病院で行われた調査によると、病院を受診した泣き止まない赤ちゃんのうち、医学的な治療を必要とする病気が隠れていたのは5%だけでした。
つまり、泣き続ける赤ちゃんの多くは医学的に特別な対応を必要としませんが、やはり病院を受診した方がよい赤ちゃんが一部いることは事実です。

また別の泣き止まない赤ちゃんに関する研究では、医師はお母さんからの情報で20%の原因が特定でき、丁寧に診察することで約40%は診断することができたと報告されています。
医師がお母さんから情報を集めるときに注意していることは、「いつもと違うところはないか」、「お母さんの心当たりはないか」ということと併せて、泣いている頻度です。
いつも赤ちゃんをみているお母さんは、赤ちゃんの小さな変化に気づきます。また泣き続けると、色々と原因を探して対応しますので、参考になるためお聞きします。

また、泣き止まない赤ちゃんで見逃してはいけない病気のひとつに「腸重積」という病気があります。これは生後2歳くらいまでの赤ちゃんの腸が詰まってしまう状態ですが、「10~20分おきに繰り返し激しく泣く」という特徴的な泣き方をします。
したがって、お母さんが「この泣き方はおかしい」と感じるときや「繰り返し泣く」場合は、夜間であっても医療機関を受診した方がよいでしょう。結果的に問題がないことも当然ありますが、心配なまま夜を過ごすとさらに不安になりますし、朝まで待って手遅れにならないようにする必要もあります。
なお判断がつかないときには、子ども医療電話相談(#8000)を利用してもよいでしょう。

【医療機関を受診するべきか判断するポイント】
「お母さんが心配するか」と「繰り返し泣いているか」

【出典】


●Freedman SB, et al. The crying infant: diagnostic testing and frequency of serious underlying disease. Pediatrics. 2009;123:841-8
●Poole SR. The infant with acute, unexplained, excessive crying. Pediatrics.1991;88:459-5


赤ちゃんの夜泣き〜原因と対処法

赤ちゃんの夜泣き〜原因と対処法

次に赤ちゃんの夜泣きの原因、そしてその対処法を説明します。

赤ちゃんの夜泣きの原因

赤ちゃんの夜泣きの原因は、まだ十分に解明されていないところもありますが、一般的に次のような原因が考えられています。
・環境の問題(寝ている部屋に明暗、温度、音などの刺激がある)
・生活リズムの問題(寝る時間が一定していない)

先にご紹介した都内で実施された研究では、夜泣きする赤ちゃんの特徴として「親が添い寝をしていること」、また「2-3歳以降ではベッドタイムの時間が一定していないこと」が挙げられていました。
赤ちゃんの睡眠サイクルは、生後6か月になってようやく昼と夜のパターンが定まってきますが、1歳あたりまでは著しく変化する時期です。したがって大人の生活パターンとのズレがありますが、赤ちゃんのリズムでしっかりと寝ることができ、起きている時間はむしろしっかり刺激を受けて活動できることが大切です。

夜泣きしている赤ちゃんへの対処法

泣いている赤ちゃんへの対処法としては、一般的に
・しっかりと抱きしめる
・あやす
・お気に入りのものを触らせて落ち着かせる
・ドライブに出かける
といった方法が効果的だと言われています。
次に述べる寝る直前のルーティンが確立できれば、夜泣きするたびに寝る直前のルーティンを繰り返すことも有効でしょう。

赤ちゃんの夜泣き予防法

毎晩続くと辛く感じる赤ちゃんの夜泣きを防ぐ方法として、次の3つをお勧めします。

睡眠環境を整える
夜の睡眠・昼寝の場合など赤ちゃんが眠る環境は
・部屋を暗くすること
・音の刺激をなくすこと
・室温は大人が少し涼しく感じるくらいにすること(20~22℃)
が最適です。
そして起きている時は、逆に明るいところで刺激を与え、しっかり覚醒して活動する環境も作ることが大事です。
もしお母さんが夜間を通して添い寝をしたり、赤ちゃんの隣でスマホを触ったりしておられるのであれば、寝ている赤ちゃんにとって刺激になってしまうので、夜泣きが激しいときには寝る場所を別々にしてみることをお勧めします。
また寝る部屋に光が必要であれば、足元におくタイプのライトにし、光が直接赤ちゃんの顔に当たらないように工夫をしてみましょう。

睡眠のルーティンを作る
ベッドタイムの1時間くらい前から、睡眠に向けたルーティンを作りましょう。
お風呂に入る、歯磨きをする、パジャマに着替えるといったステップをルーティン化します。
また決まった時間になれば起きていても寝る場所へいき、絵本を読む、お気に入りのぬいぐるみを触らせる、子守唄を歌うなど、寝る直前のルーティンを作り、赤ちゃんの心を落ち着かせましょう。

睡眠のリズムを作る
特に生後6か月をすぎ、睡眠のパターンができてくると、睡眠のリズムはできる限り崩さないようにします。
ベッドタイムの時間だけでなく、起きる時間も定めてあげましょう。
起きたら外の光を浴びる、あるいは室内を明るくし、起きている時にはしっかりと刺激をしてあげます。
もちろん赤ちゃんの成長に合わせて寝る時間、また起きていることができる時間は変わりますので、赤ちゃんの様子をみながら時間の調整をしましょう。

夜泣き対処時の注意点

夜泣きする赤ちゃんに対応するとき、注意しておいていただきたいことがあります。
泣き止まない赤ちゃんが、ご家族に与えるあらゆる影響について調べた研究があります。
この研究によると、赤ちゃんがなかなか泣き止まないことが、家族に絶望感、孤立感といったネガティブな感情を引き起こしていました。
また両親は自分たちの能力不足を感じるようになり、さらに家族関係の悪化にもつながっていました。
そして肉体的、精神的にも疲れてしまうことで、赤ちゃんの虐待につながってしまう可能性があることも報告されています。
そこで泣き止まない、夜泣きの赤ちゃんに対処するときには、2つのことを意識することをお勧めします。
赤ちゃんが夜泣きすることは、親の責任ではありません。

赤ちゃんが夜泣きするとき、お父さんやお母さんの愛情が足りない、赤ちゃんのケアが不十分であるということは、決してありません。
また、赤ちゃんはお父さんやお母さんに不満があって泣いているわけでもありません。
もちろん環境の調整など、お父さんやお母さんが取り組めることはあります。
しかし、夜泣きは赤ちゃんが成長する過程で生じるものであって、赤ちゃんが泣き止まない原因がお父さん、お母さんにあるとは決して考えないでください。
そしてこの考えは、ご両親の一致した考えとして共有しておくのがよいと思います。

夜泣きする赤ちゃんに腹立たしい感情が生まれたら、その場を離れる。

もしどうしても夜泣きする赤ちゃんに対して腹立たしい感情が生まれたら、一旦赤ちゃんを安全な場所に置き、その場から30分ほど離れることをお勧めします。
その場から離れ、お父さん、お母さんの感情を鎮めるために、夫婦や友達で会話する、気分転換のために音楽を聴いてみるといった対策を取りましょう。
そうすることで、感情に任せて赤ちゃんを扱うことを避けることができます。

【出典】


Botha E, et al. The consequences of having an excessively crying infant in the family: an integrative literature review. Scan J Caring Sci. 2019;33(4):779-90.


まとめ

夜泣きは、日本の6割以上の赤ちゃんにみられる現象であり、日本中のお父さん、お母さんたちが頭を悩ましていることです。決して特別なことではありません。
赤ちゃんが夜泣きを始めたら、まずはご両親ができることをすること、そして心配があれば医療機関を受診することです。
そして決して一人だけで背負い込むのではなく、家族の絆を深め、成長の過程にある赤ちゃんも一緒に、家族みんなが成長する機会にしてほしいと思います。